特集WORLD:キーパーソンに聞く、06年の政局 小沢一郎・民主党前副会長
毎日新聞 夕刊  
 小泉首相は「冷血のペテン師」−−リーダーにこそ競争原理を


 −−小泉内閣の5年間の評価は。

 小沢一郎 昨年の総選挙の小泉劇場と今度のライブドア事件が、小泉政治を象徴しているね。

 自民党の事実上の公認候補だったホリエモン(堀江貴文容疑者)は、結局、カネもうけのためには手段を選ばない人物だった。モラルや人間性というものがない。まさに、国民など眼中になく、権力の維持そのものが目的化している小泉政治そのものだ。今ようやく、ホリエモン事件を通じて、化けの皮がはがれ、小泉政治の本質が国民にも具体的に分かってきた。ただ、小泉(純一郎首相)さんはホリエモンよりはるかにしたたかだ。国会で追及する側はよほどふんどしを締めてかからないと、ごまかされてしまう。

 小泉内閣は「官から民へ」と言ってきたが、郵政民営化の結末を見てごらんなさい。形だけ株式会社にしたにすぎない。耐震データ偽造事件でも、民間の建築確認検査機関がまるで機能していなかった。悪い言葉ですけれど、小泉さんは冷血のペテン師です。政治家としてはそういう要素も必要で、僕なんか少し見習わないといけない(笑い)。でも、それだけというところが小泉さんの問題です。


 −−外交、特に近隣外交が行き詰まっている。

 小沢 小泉さんは、ホリエモンと小泉劇場の破たんでなおさら意地を張り、今年はきっと8月15日に靖国神社に参拝する。それで「信念を貫いた」と言うのでしょう。そこに日本の国益という観念は全くない。辞める人はいいが、近隣外交をごちゃごちゃにされる日本国民はたまらない。

 小泉首相は「日米同盟が緊密化するほど中韓と良好な関係が築ける」と言うが、いま日米同盟すら危うい、というのが僕の見方です。中韓と対立したら、アメリカは日本を評価するのか? ますます「日本抜き」になるだけです。

 ただし、中国側にも問題がある。共産党政権は、抗日戦勝利が国民への最大のアピールになっているから、「侵略者たる日本」ばかりを強調し続ける。それは日中双方にとってよくないと、キッチリ言うべきだ。肝心な筋道は曲げる必要はない。例えば尖閣諸島は歴史上、琉球王朝の領土だったことが明らかで、日本の領土だ。僕はずっと中国の要人に「いずれ我々が政権を取ったらケリをつける」と言っている。

 一方、小泉首相の靖国参拝は、僕に言わせれば、日本の方が筋が通らない。靖国神社は、天皇陛下も問題なく参拝できていた1977(昭和52)年までの本来の姿に戻すべきです。

 
−−A級戦犯合祀(ごうし)が問題か。

 小沢 「A級戦犯」は戦勝国の言葉だが、靖国神社は本来、戦いで倒れた人だけを祀(まつ)ってきた。乃木希典大将(明治天皇大葬の日に自害)らは祀られていない。戦いで亡くなった人だけなら諸外国も文句のいいようがない。それに、戦争を指導した人たちは、外国から指摘される前に、日本国民に対して大きな責任があることを自覚すべきだ。三百何十万人も殺して負けたのだから、せめて自ら頭を丸め、英霊の菩提(ぼだい)を弔うのが本当でしょう。


 −−民主党の「対案路線」の評価は。

 小沢 対案の中身による。現在の政府・与党の官僚支配システムを前提に、同じ土俵の上で「ここもいじれるでしょう」と枝葉末節のことを言うだけでは、民主党の存在理由はない。

 「この古い土俵ではもうダメだ」と新しい理念を掲げ、政治、行政、経済、社会の新しい仕組みの根幹を提示すべきだ。岡田克也前代表は旧来の自民党、役所のベースと重なるほど国民は安心すると主張したが、私は「それでは自民党に絶対勝てない」と指摘した。前原誠司代表にもアドバイスするとすれば、同じことを言いたい。国民は自民党政治とは異なる根本的な変化を望んでいるんです。


 −−昨年の総選挙では、都市部住民が自民党支持に回った。
 
 小沢 都市部は豊かだけに浮気なの(笑い)。しかしサラリーマンにとっては、終身雇用と年功序列の崩壊はすごく深刻だと思う。それらは日本社会においてセーフティーネットの役割を果たしてきた。それだけに、民主党政権なら日本的セーフティーネットをこうつくるという政策を明確に示せば、地滑り的に圧勝できる。自民党の基盤層だった農民、漁民はとっくに反自民だ。細川政権による政権交代から13年たち、自民党は屋台骨が揺らぎ、単独では政権を維持できなくなっている。崩壊の瀬戸際だ。ここでノックアウトパンチを出せば、新しい国をつくることができる。

 グローバリゼーションの中で、競争原理を本当に求められているのは企業の総合職、官庁のキャリアなどリーダー層です。日本は平等社会だから、リーダー層がぐうたらでダメ。決断が苦手で、優秀なリーダーは排斥される。リーダー層を立て直さないと、グローバリゼーションに耐え切れない。

 
−−民主党代表選挙には出馬するのか。

 小沢 僕自身がどうするかは別にして、ピリッとした、国民にキチンとシグナルを送ってアピールできる党にしなければならない。前原代表は、夏前に基本政策について党内で議論したいと言っているようだが、大いに結構だ。まず前原代表が明確な理念とビジョンを示し、そのうえで地方分権、教育、年金、医療、雇用、農業などについて、基本の考え方をまとめることが必要だ。安全保障の話も必要だが、それだけではいけない。

 
−−前原代表は、基本政策で党内集約ができなければ、代表選に出馬しないと表明した。
 
 小沢 それはリーダーとしてごく普通の話だ。許容範囲内であって、党内の多数がそれでいいと言うのならみんなも従う。もちろん、本質的な問題で相いれないなら、また別だ。いずれにしても、民主党は基本政策が明確でないから議論するのはいいことだ。

 ライブドア事件や耐震データ偽造問題、牛海綿状脳症(BSE)の問題で、国会では与野党が激しい論戦を展開している。秋の民主党代表選への出馬もうわさされる小沢一郎・前党副代表(63)に、小泉政権の評価と民主党の行方を聞いた。【松田喬和、太田阿利佐】
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